香川の今を未来につなぐために、生産者をもっと知ってほしい

臼杵英樹/香川県三豊地区

香川県さぬき地域の農業



うどん県・香川。
誰もが讃岐うどんを思い浮かべるほど、うどんで有名な香川県。そんな香川県さぬき地域で40年以上農業を営む臼杵(うすき)さんは、「香川の農作物にはブランドになるような代表的なものがない」と言います。ここは筍、お茶、きゅうり、おくら、みょうが、みかん、桃、いちじく…と、野菜も果物も採れる恵まれた地域です。収穫カレンダーを見ると、常によりどりみどり。どんな季節も素敵なフルコースができそうです。しかし、小規模な生産者が多いため、出荷量は目立って多いものがなく、どうしても印象に残りにくいのです。

香川三豊地区

でも、小規模生産者が多いということは、美味しくて、質の良いものを作れる体制があるということ。家族だからお互いちょっとの無理が効く、細やかな手入れができる、手間ひまをかけられる…。時には喧嘩もしながらも、そんな積み重ねができることが小規模生産者の強みです。さぬき地域の農業生産者の高齢化は深刻な問題で、5年後にはこの地域の農業人口は半分以下になると予測されています。そんな中で、次の世代に繋ぐための「つなぎ役」をしているのが、臼杵さんです。

プラットホーム・直売所「さぬきこだわり市」



さぬきこだわり市

まだ全国的に直売所が珍しかった30年以上前、畑の一角を使い、臼杵さんは仲間たちと香川県初の無人直売所を始めました。少しずつ面積を増やし、店員を置き、倉庫を改装しての本格的な直売所へ…と規模を拡大して来ました。そして12年前にそれまでの直売所から独立して始めたのが直売所『さぬき「こだわり市」』です。現在では無農薬・有機・減農薬をコンセプトに、栽培方法表示を徹底、現地確認、必要に応じて栽培方法の指導も行います。120種の作物を栽培して来た臼杵さんの観察力と目利きは信頼を集め、生産者は臼杵さんが畑に来るのを心待ちにしています。

朝早くから商品の出荷準備に追われている直売所は、他の直売所とは少し様子が異なります。まるで色々な農作物の「見本市」です。首都圏から飲食店の料理人さんが「こだわり市」へ来て、野菜を見て、食べ比べて注文をします。現在は取扱い量の7割近くが、店頭販売ではなく県外向けの出荷となっているそうです。明るくほがらかにお客様対応を一手に任せられるスタッフ、飲食店での調理をする立場からの提案ができる料理人出身のスタッフ、臼杵さんの取り組みや「こだわり市」に興味を持って集まって来た研修生・・・。どんな方が作ってどんな方が使ってくれるのかを知っているスタッフが、お客様と生産者を想い浮かべながら、いつも忙しく働いています。コツコツと地道にやって来て今があるという臼杵さんが大切にするのは「人」。今年12年目を迎えた臼杵さんの直売所は、頼もしいスタッフが育っています。
 

援農の仕組み



援農の風景

あるとき、長年ご夫婦で農業を営んで来られ、ご主人を亡くされた奥様から「耕耘機さえ動かせれば農業を続けられるのに…」と相談を受けたことをきっかけに、臼杵さんの「援農」が始まりました。種まきや定植、収穫期などの繁忙期、人手不足の解消を農家ではない一般の方にお手伝いをしてもらうのがいわゆる「援農」ですが、臼杵さんの援農は、耕耘機やトラクターなどの大型機械を動かす援農です。

直売所の会員さんから「急だけれど、どうしても人手が足りなくて…!」という相談もあります。その場合には、直売所のスタッフがお手伝いに出かけます。普段からお付き合いのある関係だからこそスムーズに作業ができるし、生産現場を知ることはスタッフにとっても良い勉強になります。人とモノと情報が集まる「さぬき こだわり市」は「援農」のプラットホームになっているのです。
 

5年先の地域、そしてその先の未来のために



香川の臼杵さん

グリーンツーリズム、民泊、農家レストラン…農と人をつなぐ取り組みは年々増えて来ていますが、言葉も少し硬い「援農」は就農希望者しかできないのでは、と感じるかもしれません。しかし、そんなことはありません。数週間でも1日でも、さらには数時間でも一般の方が「援農」をすることができます。中山間地域の存続には農業従事者の増加が不可欠ですが、まずは多くの人に農、食に関心を持ってほしい。そして、生産者を知ってほしいというのが臼杵さんの願いです。生産現場を知り、魅力を感じれば、その人は農家や地域のファンになって、各地で広告塔になってくれます。そのうちの10人に1人、100人に1人でも、就農や移住に繋がれば、それはとても喜ばしいことです。

さぬき地域には、たくさんの品目が生産される一方、小規模故の課題があります。県外から援農に来てくれた人の宿泊もその一つです。民泊や新たに宿泊場所を確保できる程の余裕がある生産者はほとんどいません。こういった課題に向き合いながら、自分の経験や知識を周りに惜しみなく与え続ける臼杵さんの周りには自然と人が集まって来ます。臼杵さんは、未来を担う人たちが育つように、今を未来へつなぐためにと、前へ前へと進み続けています。

さぬきこだわり市

関連情報: 農水省ページ
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